これからのOJTのあり方

コラム

現代にいたっては当たり前のように使われる『OJT』。起源は第一次世界大戦下において、戦争に必要な知識や技術など実践的なノウハウを身につける教育方法だったようだ。同じくよく使われる『研修』は一説によると第二次世界大戦後の国家公務員の教育で使われ始めたと耳にしたことがある。そうなると、『OJT』は『研修』よりもはるか昔から、100年近く存続していることになる。

『OJT』といえば、上位者が下位者に対して、仕事を通じて実務に必要な知識やスキルを身につけされることとと、一般的に理解されている。業種や業態、職種に関わらず、熟練者がこれまで培ってきた経験を新人に教えてあげる行為そのものは当たり前かもしれない。

ここで重要となるのは『相手の習熟度』に合せてタイミングよく教えてあげることである。教える側の論理で教えたつもりでも教えられる側の習熟度合いが伴っていなければ成長どころかかえって成長を止めてしまう要因につながってしまう。

以前、某電力会社ではじめて研修のお手伝いをするときに、この企業が大切にする教育憲章内に定められている言葉に「啐啄同時」という考え方を教えてもらったことがある。“啐”は雛が卵からかえろうとするときに殻の中で泣く声のこと。“啄”は親鳥が卵の殻を外からつついて、雛がでてくるのを助けること。

元は、禅宗で弟子が悟りをひらくまでにあともう少しというときに、師匠がすかさず指導して悟りを得られるようにすることの例えのようだ。雛がかえろうとしていないのに、せっかちに親鳥がつついて殻を割ってしまってもいけないし、雛がかえろうとしているのに親鳥がつついてあげないと殻が割れずにでれなくなってしまう。

前述のように『OJT』の本質として教えることは必要条件だが、タイミングを間違えるとかえって逆効果になってしまう。自分自身に置き換えてみるとどうだろうか。自分都合でOJTをしているつもりでも、相手はそう望んでいないこともあるし、今割れそうだと見極めるうえでも日頃から細かな観察をしていないと分からないものである。

さて、本題に戻るが、100年近く運用されている『OJT』はこれからどうあるべきか。ここ10年近く変わらずクライアントから頻繁に耳にする問題意識として「うちはOJTが浸透しない」「OJTが機能していない」「教育の基本はOJT」だと。

昨今、コロナ過による働き方、働く場所の変化で台頭するDXの普及。人生100年時代のマルチステージにおける求められる人材やスキルの変化。そもそも旧来のOJTの定義や考え方が現代に合っていないような気がしてならない。例えば、トレーニー(対象者)がそもそも職場に不在。上位者が下位者に一方向で教えるというスタイルが現代の価値観に合わない。求められる知識やスキルを教えられるトレーナーがいるのか。業務量が多すぎで面倒が見きれない。ハラスメントを意識しすぎるがあまり発言を遠慮してしまうなど。優秀な新人や若手からすれば自身の方が知識やスキルを持ち合わせているのに、時代錯誤な上司に「OnTheJob」されること自体が苦痛というのが本音のところだろう。

上位者側も「だから若い奴は・・」と言ってしまえばそれまでだが、若手の早期退職に拍車をかけて、いつまで経っても後輩がいない職場で、新陳代謝が悪い組織において成長が鈍化し、自分自身もプレイヤーで滞留するという負のスパイラルに陥っていることは火を見るより明らかだ。こうならないためにも、これからのOJTのあり方を新しく定義したい。

「Organizational Journeyfortranceformation(オーガニゼーショナルジャーニートランスフォーメーション)」長ったらしいが、単純にいうと「職場変革の旅」として、職場に属する職員個々のやりがいと成長を前提に組織ぐるみにおける教え合い、学び合う関係をつくることがこれからのOJTのあり方だと捉えている。

OJTの実施主体と対象もこれまで「上位者から下位者」だったものが、これからは「職場メンバー」が実施主体であり対象となりえる。デジタル普及が加速するなかで管理職が新人に教えてもらうこともこれからの時代には必要不可欠。リスキリングの一環で管理職自らデジタルリテラシーを学ぶことも大切だが、恥じらいやプライドなど捨てて新人に教えてもらうことが、職場の心理的安全性の確保にもきっと寄与できるであろう。

これまでOJTのゴールは個人の求められる能力要件の基準を満たすことに焦点がおかれてきたが、これからのOJTは、個人に限らず職場全体のエンゲージメントの向上や職場変革へ寄与できることをゴールに設定していくことが事業活動においては必要となる。

なぜなら、中期スパンで見れば、ますます従前の職能から役割や職務が重視されるとして、基準を満たしているかどうかは採用時でカバーできるわけで、個の力をつなぎ合わせて足し算から掛け算へと職場全体でパフォーマンスを出していくことがこれからのマネジメントに求められるからだ。

今後のキーワードとして、「自己完結、意図的計画的」から「自己開示、参画的、連携や連帯」がOJTの基本的根底となるであろう。もちろん、これまでの「やってみせ、言って聞かせて」のスタイルも時には必要である。うまくこれからのOJTにこれまでのOJTを内包し順応させて機能として使い分けていくことが、これからのマネジャーの手腕が試されるであろう。

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